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楠田先生は日ごろから育成と採用をテーマとして大手企業の訪問を続けていらっしゃいますが、企業は2015年採用をどう総括されてますでしょうか。

そうですね、とにかく人事部の採用担当者はここのところ本当に忙しくなっていて、地方の大学訪問をしながら東京や大阪での採用活動もある。2015年の総括と言うけれど、すでに2016年向けの取り組みが始まっているようだし。一方で2015の採用歩留りが悪くて、内定辞退が昨年比2倍なんて企業もあります。

辞退が多い企業に何か傾向などありますか。

業種としてはBtoBの製造業に多いように思います。特に文系の内定者の辞退が多いようです。もともと製造業企業は理系の採用が主体で、文系の採用は少ないですから余計に辞退がでると困ります。 グローバル企業であってもBtoBの業態だと国内での知名度は高くないですし、文系学生は全く接点がないです。理系はどうかというと、辞退というよりもそもそも応募数が多くないので採用数が充足できていないですね。特に電気学科と機械学科。それと理系採用は修士生が採用の主戦場なんですが、大手製造業の人事が嘆いているのは修士生のレベル感が学部生とあまり変わらないことです。入社してすぐの配属が厳しいので、1年間くらいかけて現場で研修してようやく正式配属にしている大手企業もあります。

ここ数年新卒採用は「厳選採用傾向にある」と言われていても、このような状況になっているということですね。

そうです。ただレベル感に課題があろうと、研修が必要であろうと製造業各社はどこも電気と機械の学生はほしい。日本はものづくりの国ですから、製造業はどこも電気と機械の人材は必要です。ここが不足すると製造業各社にとって将来深刻な事態になります。

企業の採用意欲が向上して採用数が増えるのは良いことだと思いますが、採用対象が厳選されると、内定が出る学生と出ない学生に分かれる可能性がありますね。企業側も辞退者が出やすいですし、学生が集まるところとそうじゃないところに分かれる可能性もあります。そんな中で2016年採用スケジュールが大幅に変わることになりました。楠田先生はこれによりどんな影響が出ると思いますか。

今回の倫理憲章の改定は採用活動の開始スケジュールをごっそり3か月遅くしようというものです。また選考の開始は従来より4か月遅くなりますね。8月1日からですが、こんな真夏の暑い盛りに企業訪問が集中するのはちょっとイメージしづらいですね。 それと気になるのはこれだけ後ろにずれても従来の内定解禁日の10/1の日程が変わっていないことです。これまでの日程だと学生も企業もリカバリー期間があったんですが、このような実質的な期間短縮化の中では、リカバリーが効かない。そうなると、学生も内定とれるところはすべてもらって、どこに行くかは後から決める。そのため本格的な企業研究は内定または内々定してから始めたりするんじゃないでしょうか。

そうならないように、インターンシップを実施する企業が激増しているみたいですね。

そうですね。大手ナビサイト運営会社では、インターンシップ実施企業は昨年の倍になっていると言ってました。1Dayインターンシップなんていうのもあるんですね。

はい、1DAYだと会社説明会に近くなりますね。テーマ決めたワークショップをやる企業も多いようですが、やはり本来のインターンシップの主旨からは離れてしまいます。また、人気のある企業のインターンシップには学生の応募が殺到するので、参加するのも一苦労かもしれません。

インターンシップに参加するために選考受けるわけですね。就活の本番前に選考に落ちる人がたくさん出る可能性があるわけだけど、1Dayインターンシップばかり参加する学生なんかもたくさん出てくるでしょうね。大学時代に力を入れたこととしてこの1Dayインターンシップに複数参加したことを上げられても困りますけど。

倫理憲章の改訂で採用スケジュールが後ろにずれますので、企業にとって夏または秋に実施するインターンシップからだと本番の採用活動までに時間が空きすぎるので、採用連動させるのは難しいかもしません。ただ、もともとインターンシップから本採用につながる比率は高くなく、インターンシップを実施する目的は直接的な採用ではないところにあるとも言われます。

採用そのものが目的じゃないとするとどんな目的があるんですか。

採用ターゲットとなる特定の学生層に対して採用活動前に企業認知度を上げておきたいという考えは多いようです。今の大学生はPCやスマートホンでSNSや掲示板サイトに向けてインターンシップ体験記のようなものをどんどん発信していく傾向にあります。企業にとってマイナス情報も流布されてしまう怖さもありますが、同時に体験した学生が素直に感じた企業の雰囲気や良さも伝えてくれるメリットもあります。

なるほど、まさに今時の採用PR手法と言えそうですね。そういう前提だとインターンシップを実施する企業としてはどんなことに気をつける必要がありますか。

連続5日であっても1Dayであってもまずは丁寧な対応で迎えることですね。人事のご担当者の中にはベテランの方も就任後間もない方もいらっしゃいますが、学生から見たらどの方も企業を代表する人事採用担当です。インターンシップを受けている段階ではまだ就職を希望する企業として学生は認識していません。知らないから参加するわけで、ある意味企業と学生が相互理解するプロセスと捉えて、いろんな情報や意見交換の機会を作ったほうがいいかと思います。そうすることで企業側も学生と接する上での新たな気づきが生まれるのではないかと思います。

採用スケジュールが変わることで企業が一番慎重に考えなければならないのは、学生のエントリー導線の作り方だと思います。プレエントリー数は多い企業だと80,000人を超えるケースもあるようですが、この80,000件がどのような導線から集積されたものかによってその重要性と対応の仕方が変わります。

そんなに応募があっても全員説明会に呼べないしね。

はい、この80,000人はプレエントリーですから、学生自身が「応募」と認識しているわけではありません。説明会への参加、またはエントリーシートの提出をもって正式応募とらえているようです。

ナビサイトに何十社も一括エントリーできる機能がついているようですが、清水さんはこれはどう見てますか

一括エントリーによるプレエントリー者の増加を、サイトを使用している企業はあまり良しとしていないように聞いています。無駄なエントリーが増えていると。 でも、そもそも学生が就職活動前から知っている企業はほんの一握りの数でしかありません。そうであれば、学生への情報提供のきっかけになるプレエントリーはやりようによって企業認知度を上げるためには大変意味あるプロセスになるんじゃないかと思っています。 スケジュールが後ろにずれて、プレエントリー開始から本選考解禁日まで、従来より1か月長くなるので、プレエントリーをきっかけにして、より有益な本エントリー母集団を作ろうとする方向に行くのが当然の流れと思います。

なるほど。ただ、人事の採用担当者が忙しいから、プレエントリー者への細やかな対応というのは時間に追われる中では難しいかもしれないですね。

そうなんですが、最終的にはナビサイトではなく企業の自社サイトに学生がきてエントリーする導線をつくるのが採用効率を上げる最も有効な手段だと思いますので、プレエントリーを単に無駄と考えるのではなく、その先の導線構築を進めるうえでどういうプレエントリー集合にしたらいいかを考えるべきではないでしょうか。

人事が「優秀」と考える人材が感覚的に減ってきていると言われるだけに、いろんなきっかけで母集団化された中から、発掘してフォローするということも必要になりますね。

はい。今はちょうど倫理憲章が改訂されてスケジュールが後ろにずれるので その期間での採用活動をどうするかが話の中心になっています。 しかし、この期間に関係なく採用広報している企業もありますし、企業の発展・拡大に欠かせない新卒人材の採用を企業全体の課題ととらえて広報PRを始める企業も多数出てきています。別の観点では若い人材にしっかり育ってもらうためのサポートをすることが大きな社会貢献になると考えて、CSR担当部署が大学と連携してキャリア支援イベントなどを開催するケースも散見されます。 こうした取り組みの先で、大学生が企業やその事業内容を知る機会が増えれば、なにも短縮化された就職活動期間中に「自分の興味がある企業はどこだ?」と急かされて選択する必要はなく、ましてやエントリーシートをコピペ量産をする必要も無くなるのではないかと考えています。

おっしゃるとおりですね。企業側としても、対策本読んだ学生を面接してこの人はどうだろうか?と考えるより、この学生は普段どんな人なんだろうということのほうが見たいはずですよね。清水さんが言うように就職活動ではないところで自分の意見を言ったり行動している大学生を見て、こういう人材採用したいと。そういう仕組みが将来できるとある意味ミスマッチも少ない採用ができるようになるんでしょうね。

新卒採用はスキルがないからポテンシャル採用だとよく言われます。ただポテンシャルが発揮される場面をイメージして面接で評価するのは難しいですが、この評価を適性診断ツールに依存するのも機会ロスになるようで怖いですね。 ところで楠田先生の著書「内定力2016」で人事の方にアンケート調査された採用選考で重視する「社会人基礎力」ランキングでは、1位はダントツで主体性でしたね。回答内容を拝見しましたが、主体性を「もっている力を進んで発揮しようとすること」と解釈しているように思えました。これって面接のプロセスでは一番つかみづらくて面接していても疑心暗鬼になる部分じゃないかという気がしました。

そういうこともあるかもしれませんね。新卒入社者の30%以上が3年以内で退職していることについて意見を聞くと、「業界平均です」って普通に答える人事が多いです。あまりそれは問題視していないというか、そのくらいミスマッチが出るのはやむを得ないでしょうという感じでした。結局持っているものを発揮しない人が一定いることにも関係しますね。

確かに選考のプロセスで、周囲を巻き込んで課題を解決するとか、環境の変化に順応して解決の方向性を出していくとか面接で話を聞いたくらいではわからないですから学生の話すことで判断するしかないですからね。グループディスカッションとかワークスショップセッションとか、面接で見られない部分を何とか見ようと努力されているわけですが、学生も見破られまいとして正体を現さない。まあ新卒一括採用と一定の離職というのはいまのところセットになってしまっているのが実情です。

ところでワークス・ジャパンさんは企業の新卒採用課題を解決するためのコンサルテ―ションをされていらっしゃるわけですが、企業からの相談で今一番多くなっているテーマはどんなことですか。

実は結構シンプルかつダイレクトな課題だったりします。「優秀な学生を呼びたい、会いたい」が一番多いです。ワークス・ジャパンでは、「つたえる」「であう」「つながる」という3つのキーワードで、採用広報、イベント・セミナー、システム&採用アウトソーシングの事業を行っていますが、直接人材との出会いを創出するのはイベント・セミナーなので企業ニーズの高い大学生を集めることができるという当社の背景をお話しすると大変興味を持っていただけます。

確かに企業が必要としている人材と出会えるんだったら分かりやすいサービスだし価値が高いですよね。

はい。ただ、確かに当社では企業がターゲットにする人材をさまざまなテーマ、属性で集客することができますが、「であう」だけではなかなかベストな結果につながりません。逆に、企業側も出会うきっかけはすでにいろいろお持ちなんですが、人材の個々の企業に対する興味度やポテンシャルは把握しきれませんし、マンパワーや時間的な制約もあり、優秀と思った人材に企業理解をさらに促し本気で志望してもらうことが重要なんです。 つまり「であう」戦略には「つたえる」「つながる」施策を紐づけて取り入れないと、知らないうちに機会ロスが増加していたりします。これは出会えるのにもったいないことです。

なるほど、さきほどのプレエントリーからの導線構築に通ずるところですね。 明確な意思もなくプレエントリーした人たちに、企業理解を促し積極的につながることで帰属意識を高めてもらう。優秀な学生が減ってきていると人事担当が感じているくらいですから、ターゲット人材への働きかけはそれこそ企業側が「主体性」をもってやっていかないと、思い込みと勘違いでミスマッチが深まる可能性が出てきますね。2016採用はこれまで企業が組み立ててきた採用感覚が参考にならない場合もあるので余計にそうですね。

現在、売り手市場の中での厳選採用です。これを短期間で行うわけですから、採用規模、採用スタッフ数、社内他部署の採用支援体制などにも十分配慮した計画と行動をじっくり作り上げることだと思います。 採用スタッフの数は大手企業であっても非常に少数で頑張っていらっしゃいます。新卒採用で大事なのは、企業と人材がしっかり向き合い相互理解するプロセスを創出することだと思っています。したがって私どものソリューション提案の基本は、この大事なプロセスを最大限有意義にする広報展開を企画し、ターゲット学生を集客し、煩雑な作業を軽減しながら企業と学生のマッチングプロセスをフォローしていく、まさに「つたえる」「であう」「つながる」ことにあります。

企業にとって新卒採用は苦労も多いですが、それだけ価値の高い経営施策だと思います。きっと大学が存在する限り、企業の新卒採用というのはこの先も無くならないと思います。 ただ、先々のことを考えるといろんな課題がありますね。人口動態推計では、日本の人口は減少するといっても50年後でも約8700万人くらいいるから、産業としても内需系の産業が成り立つはずなんです。心配なのはもともと雇用比率として高いディストリビューターとリテール勤務者が内需産業では相当不足するんじゃないかと考えています。 今でもその傾向はあるわけですから。新卒無業者と言われる層を無くし、若年人材がきっちり社会参加できるミスマッチのない採用の仕組みが必要です。そういう意味でワークス・ジャパンさんが新卒採用支援に特化した事業を展開していくのは大変意義深いことと考えます。

楠田先生ありがとうございます。大変やりがいのある事業に携わっていると思いますのでこれからも新卒人材の採用支援を通して企業と社会の発展に寄与していきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

PROFILE

楠田 祐
Kusuda Yu

中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授(戦略的人材マネジメント研究所 代表)東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を5年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問も担う。主な著書:(2014年7月31日発売)内定力2016 『就活生が知っておきたい企業の「採用基準」』マイナビ、(2011年6月16日発売)『破壊と創造の人事』ディスカヴァー21

清水信一郎
Shimizu Shinichiro

株式会社ワークス・ジャパン代表。大手就職情報会社で企業情報誌の編集責任者、マーケティング部門の責任者を歴任。2007年ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社に入社。採用ソリューション部門執行役員。2010年7月株式会社ワークス・ジャパンを設立し代表取締役社長に就任

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